ラビリンスワールド 第5章 (まとめ)  L508

【ラビリンスワールド 第5章 (その1)  L501】

【第五章:転換点】

ユウカの指定する場所に行き、ユウカの指示に従って仕事をし、給料をもらうという生活を数年続けたある日の昼にカフェの窓側の席で外を見ながら休憩していた。

しかし、ユウカの奴は相変わらず人使いが荒いな、これだけの給料じゃ割に合わないな、などといつものように考えていた。そこに、最近ユウカのところに来たナナとミサキが大きな声でしゃべりながらカフェの前を通り過ぎていった。

ナナ「なにあの、ショウってひと。暗いんですけど」

ミサキ「そうそう。暗くて気持ち悪い。それに臭いし」

ナナ「わかる~。特に汗かいているときなんて超臭いんですけど。鼻もげる」

あいつらそんなことを思いながら仕事をしていたのか。怒りが込み上げてきた。あいつらに文句を言ってもことが大きくなるだけなのでここは我慢することにした。仕事に戻って、作業を続けていたが今までなんともなく普通に接していた人も俺を避けるようになっており、裏でヒソヒソ話をしていて俺が近くに来るとすぐにヒソヒソ話をやめて俺から離れていくことが何回もあった。くそー。あんなやつらと一緒にやってられるか。ゴールドはある程度溜まっていた。レベルを確認したらレベル17になっていた。よし、レベル18まであともう少しだ。もう、いやな思いをしてユウカのところに居る必要はない。このゴールドを元手に一人で稼げる方法はないか考えた。ギャンブルはゴールドがなくなる可能性が高いし、いい防具や武器を買って格闘技場で稼ぐか。などと考えてる日が増えていった。よく考えた結果、ユウカみたいにステンレスをブランド品の部品にまで加工する技術は持っていなかったが、金属のインゴットの製造なら何とかやっていけると思った。

「インゴットにすれば鉱石よりは高く売れるので鉱石を拾って、拾った鉱石でインゴットを作って売るとしよう」

あまり面白い仕事ではないがユウカのところで働くよりはましだと思った。翌日、ユウカにユウカのところで働くのはやめることを伝えた。

【ラビリンスワールド 第5章 (その2)  L502】

やめた次の日から裏山に登って鉱石を探してはインゴットにする仕事を始めた。これまで、数年間、やってきただけあってどこに行けば鉱石が取れるかはわかっていた。また、ユウカのところで何回もやってきたのでインゴットにする作業も失敗しないで作れた。しかし、高く売れるインゴットの原料となる鉱石は思ったほど取れず、ユウカのところで毎日もらっていたゴールドよりも少ない稼ぎだった。まあ、ユウカのところであの人ひと達と働くよりましだと思った。

そんな生活を数か月していたある日、石を集めている最中に何気なくスマホで自分のレベルを見てみると、レベル18になっていた。よし、レベル18になった。これで、ラビリンスワールドの生活ともお別れだ。石を集めるのをやめ、急いでL18禁のエリアに向かった。L18禁のエリアの入口にある電子錠にスマホをかざしてみた。しばらく間があったが、電子錠が開き念願のL18禁エリアに入ることができた。

「やったー。ようやく入れたぞ」と思わず声にだしていた。

L18禁エリアに入るとそこにはこれまで見たこともない高級な武器や防具を売っている店や雑貨屋、服屋、家具屋があった。出口はどこにあるのかと探したところ奥に扉が2つ並んでいた一つの扉には「L30禁」と書いてあった。

「L30禁って。気が遠くなるな」と思った。

もう一つの扉には「ラビリンスワールド出口」と書いてあった。ようやく出口を見つけた。やっとここから出られると思いドアを開こうとしたが、開かなかった。電子錠があったのでスマホをかざしてみたが、どうしても開かなかった。ドアの横に目をやると注意書きがあった。

『この出口を開けるにはL30禁エリアにあるパスコードをスマホで読み取り、出口の電子錠を開錠してください』と書いてあった。目の前が真っ暗になった。終わったと思った。

ショウは気が付けばカプセルホテルのベットに横になっていた。どうやってL18禁エリアからカプセルホテルに帰って来たのか、記憶がなかった。それから、1週間動く気力もなくカプセルホテルのベットで過ごした。

1週間後にようやく外に出る気になってきたので、石拾いをしてインゴットを作る生活に戻っていった。

シルバーラビリンスの素材工房は1つしかないため、ユウカのグループと度々出くわすことがあった。ボーとした状態でインゴットを作る生活をしていたある日、俺がインゴットづくりをしていると隣で作業していたユウカのグループのナナが騒ぎ出した。

ナナ「ユウカさんさっき作った鉄のインゴットを見かけませんでしたか」

ユウカ「いいや、見てないぞ」

ナナ「今から使うので、さっきここに置いておいたのですが、ないんです」

ユウカ「そこらへんに落ちてるかもしれないから周りをよく探してみろ」

ナナ「さっきから、いろんなところを探してみたのですがないんです。そうなると、ショウが盗ったとしか考えられないんです」

ショウ「なんだと」

ユウカ「ショウお前とったのか」

ショウ「俺じゃないですよ」

ナナ「じゃあ持ち物調べさせてもらうわよ」

ショウ「ああ、いいぞ。なかったらただじゃおかないからな」

ナナ「スマホ貸しなさいよ」

ショウ「好きにしろ」といってナナにスマホを渡した。

しばらく、ショウの持ち物の欄をスマホで確認していた。

ナナ「今日、鉄のインゴット使った」

ショウ「いいや、今日はクロムのインゴットを作ってるだけだ」

ナナ「じゃあ、この鉄のインゴット1っていうのはなによ」

ショウ「え!そんなはずはない。貸してみろ」スマホの中身を調べてみたところ、ナナのいうとおり、鉄のインゴットが1つ持ち物の中に入っていた。なにがなんだか、訳が分からなくなった。

ショウ「え、その、あの、これは・・・」

今日のことを思い出していた。今日は朝からクロムの鉱石を集めて、素材工房にきて、クロムのインゴットをひたすら作っていただけだ。そういえば、

ショウ「わかった。さっきつ作ったクロムのインゴットを入れたときに間違って鉄のインゴットも入ってしまったんだ」

ナナ「うそつかないで、盗ったんでしょう」

ショウ「違います。ユウカさん信じてください。間違って入ってしまっただけです」

ユウカ「今回だけは許してやる。次やったらタダじゃあすまないよ」

ショウ「すみませんでした」ショウは逃げるように素材工房を後にした。

【ラビリンスワールド 第5章 (その3)  L503】

ラビリンスワールドの出口も見つからず、トラブルに巻き込まれ、気分は最悪で頭が痛く少し吐き気もしてきた。悔しくて泣きながら歩いてカフェに向かった。

カフェでボーとしながら窓の外を見つめていると、隣に座っていた白髪混じりの中年男性が話しかけてきた。

中年男性「落ち込んでいるようですが、どうかされましたか」

ショウ「はい。いやなことがいろいろありまして」

中年男性「そうですかそれは大変ですね」

ショウ「聞いてくださいよ」

中年男性「今回は話をしてくれるのですね」

ショウ「今回?」

中年男性「私があなたに話かけるのは初めてじゃあないですよ」

ショウ「え、いつお会いしました?」

中年男性「3年ぐらい前、重そうな荷物を運んでいました」

ユウカに頼まれ、臼を必死に薬工房まで運んでいるときに声をかけてきてうっとうしい人がいたのを思い出した。

ショウ「あの時の」

中年男性「覚えておられましたか。私はマコトと言います。それで、今日はどうされたのですか」

ショウはこれまでのことすべてを1時間以上かけてマコトに話をした。マコトはたまに相ずちを打ちながら静かにショウの話を聞いていた。話を聞き終わってマコトは

「名前はショウさんというのですね。それは大変でしたね」

「理解してくれて、うれしいです」ショウは少し気分が楽になった。

「このラビリンスワールドに来てからずっといいことがないんですよ。どうすれば、しあわせになれますか」

「しあわせになれますよ」とマコトは答えた。

「どうやってですか」

「意識を変えればいいんですよ。まずは自分に起こっているすべての責任を負うという覚悟が必要だと思います」

「意識を変える?責任を負う?」ショウには何を言っているのか全く理解できなかった。

「そうです。自分の言動だけでなく、自分のいる環境や出来事にも責任を負うということですよ」

「自分の言動ならともかく、環境までは責任はとれませんよ。環境なんて私の力では変えれませんから」

「そのような考えから変えていったらどうでしょう」

「無理ですよ」

「そう思っている限り、これまでと何も変わりませんよ」

「でも、無理なものは無理でしょう。環境を自由に変えられる人なんていませんよ」

「その考えを変えてみましょうとお誘いしているのです。まずは今、身の回りで起こっている全てのことの責任は自分にあると考えることにする。考えるだけですから、タダですしね。もし、途中でこの考え方が間違えだと思ったら、この考えをやめればもとに戻れますから」

「わかりました。ただそう思えばいいのですね」

「そうです。それがしあわせへの最初のステップだと思うんです。自分に起こるすべての原因が自分にあり、言動をはじめ環境も自分で創っているのだとすれば、自分で変えられるということになりませんか。他人は一切関係なく、自分で創っているのですから」

「そうなりますね」とショウはこたえた。

「そうすると、自分の望む言動や環境をつくるのに他人を変える必要はないんですよ」

「そうなりますね」

「そうでしょう。そうすると、自分が変わればいいだけですから思っているより難しくはないと思いませんか」

「そうなりますか・・・」ショウはマコトの話についていくのが難しくなってきた。

「理解が追い付いていないようですね。今日はこれまでにしましょう。また、興味があれば続きをお話ししますよ」と言って、俺たちは連絡先を交換した。

「1つ大事なことを言い忘れていました。しあわせへの道はこの方法が唯一の道ではありません。自分に合わないと思ったら、考え直せばいいですよ。私は強制しませんので、ご自分の意思で決めてくださいね」

「はい、わかりました」

【ラビリンスワールド 第5章 (その4)  L504】

カプセルホテルに戻り、マコトの言ったことをよく考えてみた。自分の周りで起こっていることは、自分が原因で起こっているという意味のことを言っていたよな。そういうことにするということは分かったが、こんな、最悪な人生を自分で創った記憶はないんだけどなぁ。それに悪口を言う奴はそいつが悪いに決まっているじゃないか。マコトさんは何を言っているんだ、と考えていた。

次の日も同じようにインゴットづくりを行っていたが、気分はおもく1日を過ごすのがとても苦痛であった。仕事終わりにカフェに寄るとマコトがいたので、話しかけてみた。

「やっぱり、今の状況を自分で創ったなんて思えないのですが」

「そうですね。その気持ちはよくわかります。信じられないのであれば仮定として考えてみてはどうでしょう。つまり、今の状況は自分で創ったと仮定するという具合に」

「それならできそうですね」

「それじゃあそういうことにしましょう。今の状況を自分でつくったのであれば、自分で変えることができるということになりますね」

「そうなりますね」

「それじゃあ、今の状況を変えてみましょう」

「どうやって?」とマコトに聞き返した。

「考えや思い込みを変えてみるのですよ」

「考えや思い込みを変える?」

「そうです。考えや思い込みが今の状況を創っていると仮定してみましょう」

「今の状況は自分の考えや思い込みによって作られていると仮定する?」

「そうです。そう仮定するのです。理解できていますね。普通の人は常に頭の中で考え事ばかりしています。ショウさんはどのような考えをしていますか」

「明日何の鉱石を取ろうかとか、のどくらいの量を取ろうかとか。いやな奴にと会わないようにするにはどうしたらよいかとかですかね」

「気を付けてみてみると、頭の中ではひっきりなしにいろんな考えが浮かんで、いつも何かを考えていますよね」

「はい」

「まずは、少しでいいので考えを止める練習をしてみましょう。今ここにあるものに集中することで、頭の中の考えが止まります」

「そうなんですか」

「いつでもどこでもできるので、よく使われる手法は自分の呼吸に集中することです。息を吸い込むときの鼻から空気が入る感じ、空気で胸が膨らむ感じを感じます。息を吐くときも口から息を吐いている感じ、胸から空気が抜けていく感じに集中し見ましょう。呼吸に集中することによって頭で考えないようにします」

ショウはしばらく呼吸に集中してみることにした。(息を鼻から吸って、口からはく。あれ、これって考えてる?だめだ、呼吸をしている感覚を感じなければ。これってちゃんとできているのかな。あだめだ、また考えている、難しいな・・・集中、集中。コーヒーカップとソーサーが当たる音は大きいもんだな。静かにしているとよく聞こえるな。あれ、違うこと考えてる)

「ダメです。うまくできません」とマコトに伝えた。

「はじめは、うまくいかないものです。周りに人がいるから集中できないのかもしれませんので、カプセルホテルのご自分の部屋で練習してみてはいかがでしょう」

「わかりました」

そういって今日はカプセルホテルに帰ることにした。

【ラビリンスワールド 第5章 (その5)  L505】

カプセルホテルで試してみたがあまりうまくいかなかった。

毎日続けていると少しずつ呼吸している感覚を感じることに集中できるようになってきた。

1週間ぐらい練習して15秒ぐらいは呼吸に集中できるようになった。

前回マコトに会ってから1週間後にまたカフェに行った。

「少しは呼吸に集中できるようになりました」

それはよかったですね。頭の中は思考でいっぱいだということがわかりましたね」

「よくわかりました」

「その思考が現状を作っているのだとしたら、その思考を変えればいいですよね」

「でも、すべての思考が悪いというわけじゃあないでしょう」

「そうですね。それじゃあ気分が悪くなるような思考やいやな気持ちになるような思考などのネガティブな思考を手放していきましょう」

「はい」

「普段はどんな気分のことが多いですか」

「いつもいやなことがあるので、気分はブルーです」

「それはよくないですね。ブルーだといやな気分ですよね。まずはこのブルーな気分を手放すワークをやっていきましょう。それではそのブルーな気分を意識して見てください。そしてその気分は好きではないですよね。それでは好きではないと自分で決断します。そして、この気分を選択したのは以前の自分です。その時はいい選択だったかもしれませんがいまではこの選択は間違っていました。選択したときには間違ったとは思っていなかったかもしれませんが、今は間違った選択だと考えています。間違った選択だったと決断しましょう。そしてこのブルーな気分を手放します。この気分にしがみつくのをやめて手放してやります。そうすると体の力が抜けていくのが分かります。最後に正しい選択ができるよう神様にゆだねましょう。いいですが」とマコトは説明した。

「ではやってみましょう」とショウをうながした。

今言われたことを思い出しながらショウはやってみることにした。

「まずはブルーな気分を意識する。この感覚は好きではないと決断する。間違った選択をしたと決断する。そして手放す。ふー。あ、本当に気分が軽くなった! 最後に神様に正しい選択ができるようゆだねる。できました。さっきまで、あったブルーな気分がほとんどなくなり、軽くなりました」ショウは気分が軽くなったことをとても実感していた。

「それはよかったですね。成功です。この方法はネガティブな感情や思考を手放すのに使えますよ。でも、ネガティブな感情を手放しても、それを創っている元の思考が残っている限り、一時しのぎでしかないことを忘れないでください」

「わかりました」

「まずは一時しのぎでもネガティブな感情を手放せば、気分的にはだいぶ軽くなると思います。つづけてみてはどうでしょうか」

その言葉をきいてショウは少し気持ちが明るくなったような気がした。これはいいことを教えてもらったと思った。

それから、嫌なことがあると手放しのワークを行い、ブルーな気分になる時間は短くなっていったが、しばらくすると手放したはずの思いが再び湧き上がってくるのに気が付いた。

【ラビリンスワールド 第5章 (その6)  L506】

仕事終わりにカフェに行って、マコトに話しかけた。

「ブルーな気持ちになった時に手放しのワークをすると、気分が軽くなりとてもいいのですが、しばらくするとまた同じようにブルーになるんです」

「そうですね。それでは次に進みましょうか」

「よろしくお願いします」

「とは言っても、やることは同じなんですよ。同じようなワークをするだけです」

「同じことをしても、繰り返しになるだけじゃあないですか」

「同じと言っても、対象を広げるのです」

「対象を広げる?」

「そうです。いままではブルーな気分やネガティブな気分を見つけては決断して手放すということをやってきましたが、このネガティブな気分を生み出している元の思考の存在にも気が付けば変えることができます。こうでなければいけないという思い込みを違う方法でもできるというふうに変えればいいのです」

「思い込みを別の考えに替えるのですね」

「考えをすべて替えるではなく、不必要になった考えや思い込みを手放したり替えたりするのです」

「わかりました。できそうな気がします。やってみます」

ショウは次の日からブルーな気分が湧き上がってきたときには手放しのワークでブルーな気分を手放した後、この気分がどういう思い込みから来たのか自分自身の中を探し、思い込みを見つけられたときにはポジティブな考えに替えるようにした。

いやな気分になったときに、これらのワークを普通にできるようになった頃にはだいぶ時間がかかったがブルーになる回数は減ってきていた。

効果があると感じたので、久しぶりにカフェに行ってマコトにお礼を言うことにした。

「マコトさんおかげさまで、気分がブルーになることがだいぶ少なくなってきました。どうもありがとうございました」

「そではよかったですね。自分の経験が人の役に立ててうれしいです。いままではネガティブに目を向けて手放してきましたが、今度は楽しいことを見つけて実行していってはいかがでしょう」

「楽しいことを見つける?どうやって見つけるのですか」

「自分の内側に入って探してみましょう」

「内側に入るとはどうやるんですか」

「そうですね。自分の内側にある安らぎの場所を探してみましょう。私の言う通りにやってみてください」

「わかりました」

「まずは、気持ちを楽にして目をつぶってみましょう。いいですか」

「はい」

【ラビリンスワールド 第5章 (その7)  L507】

マコトは安らぎの場所を探すための説明をしだした。

「ショウさんは今そそり立つ崖のふもとにいると想像してください。この崖を登らなければなりません。崖を登り始めてください。手はゴツゴツした岩をつかみ足は岩と岩の間のわずかなスペースを探して、つま先をかけて登ります。岩は固く、登っていると指が痛くなってきました。それでも我慢して登ります。時には腕力だけで上がらなければならないこところもあり、腕の筋肉がとても疲れてきました。少し休んでは崖の頂上を目指して登ります。

頂上までどのくらいあるか見上げてみると頂上はまだまだ先にあり、上を向いたときに砂が顔に降ってきて目に入って涙が出てきました。ようやく砂を振り払い、負けずに登っていきますが今度は雨が降ってきました。雨はだんだん強く降りだし登れないくらい降ってきました。雨が小降りになるまで崖の途中で休憩します。

頭の先からつま先までビショビショになりました。しばらく、耐えていると雨は小雨になってきたので崖のぼりを再開させます。岩が濡れているのですべりやすくなっているのでこれまで以上に指先に力が必要になってきました。

霧が出てきて、あたりがよく見えなくなってきました。それでも頑張って頂上を目指します。頑張って、頑張って、頑張って頂上を目指しますが、指や足の筋肉が限界をむかえたその時、霧が晴れ上を見上げるとあと少しで頂上にたどりつくことが分かりました。

最後の力を振り絞り頂上を目指します。やっとの思いで頂上にたどり着きました。そこは安らぎの場所です。ショウさんの安らぎの場所はどんなところですか」

「そこは緑一面の草原がひろがっています。草原を少し歩くと草原がお花畑に変わっています」

「そのお花畑に仰向けに倒れこみました。やっと頂上にたどりついたという気分になります。はい。この時の気分を覚えておいてください。このすがすがしい、何とも言えないここちよい気持ちが自分の内側にある安らぎの場所です。この安らぎの場所で静かに安らかに浸ってください。心地よさを味わってください。そうしているとフッと頭に浮かんできたりします。決して頭で考えて探さないでください。自然に浮かんでくるのを待ちましょう。いくら待っても浮かんでこないときもありますが、落ち込む必要はありません。日常生活を送っているときにフッと思いつくこともあるのです。しばらくこの安らぎの場所をあじわってください」

しばらくして

「あじわえましたか」とショウにたずねた。

「はい」

「なにかやってみたいことが分かりましたか」

「なんかガーデニングにひかれますね。あ、いや、男がガーデニングなんておかしいですね」

「その考え方を変えましょう。ガーデニングが好きならどんどんやればいいじゃないですか。なんの支障もないですよ」

「そうなんですね。でも、周りの目が気になります」

「他の人のことはおいておきましょう。ご自分のやりたいことをやってみましょうよ」

「・・・やってみます」

「そうです。ご自分のためです」

「ありがとうございました」

とお礼を言って、カフェを後にした。