ラビリンスワールド 第1章 (まとめ) L106

2022年9月18日

【ラビリンスワールド 第1章 (その1) L101】

【第1章:ラビリンスワールドについて】

気が付けば、屋根が高く白い壁に囲まれた建築物の通路におり、後ろを振り返れば白いペンキを塗った複数の頑丈な金属の棒とガラスを組み合わせて作った回転ドアがあった。この回転ドアはいっぽう方向にしか回らず、中から外への出られない構造になっている。どうやらこの回転ドアから中に入ってきたようだったが、ここがどこで、この建物は何で、なぜここにいるのか全く分からなかった。外に出られないか、回転ドアをいろいろ調べてみたり、壁を登れないか試してみたが無理だということが分かった。どうやらこの入口からは外にでることはできないようだ。自分の格好に目を移してみた。服装は上下横しまのスウェット姿でお世辞にもかっこいいとは言えない服装だった。

なぜ、ここにいるのだろう。自分に対するこれまでの記憶が全くなかった。しばらく思い出そうとしたが、ここがどこだかわからないし自分が誰だか分らなかった。仕方がないので、出口を探すために奥に進んでみることにした。少し進むと突き当りに入口に案内所とドアに記載されていた。中に入ってみるとスタッフらしき人が部屋の左手の方に向かって手を伸ばしていた。その手の先に視線を向けると壁の近くに案内所と書かれたカウンタ―があり、その前には複数のテーブルと椅子が置いてあった。そのテーブルとイスはプレーヤーが自由に使ってよいらしく、何人かのプレーヤーがくつろいでいた。テーブルと椅子の右側にはカプセルホテルと書かれた自動ドアがあった。スタッフに案内され案内所と書かれたカウンターに向かった。

【ラビリンスワールド 第1章 (その2) L102】

「ようこそ!ラビリンスワールドへお越しいただきありがとうございます。ここは当アトラクション『ラビリンスワールド』の案内所でございます」と案内係はいった。

アトラクション?俺はアトラクションに来てしまったというのか。案内係は続けた。

「それでは、ラビリンスワールドの説明をさせていただきます。ラビリンスワールドを楽しんでいただくために入口を通過した際にお客様の過去の記憶はすべて消させていただいております」

記憶がないのはこのアトラクションのせいだったのか。

「記憶はいつ戻るのですか」

「このラビリンスワールドを出れば、これまでの全ての記憶が戻る仕組みとなっています」

「気が付いたら俺はこのラビリンスワールドにいるのですが、なんで俺はこのラビリンスワールドにいるのですか?」

「それは、お客様が自ら参加したいと希望されたからです」

「そうなんですか・・・」

俺が希望してこのアトラクションに来たというのか。

「どうやったら、ここから出られるのですか」

「ラビリンスワールド内には複数の出口がございます。ご自分で出口を探して見つけていただくことがこのアトラクションの目的の一つです」

「そうか、ちゃんと出口はあるのですね」俺は少し安心した。安心したので、このアトラクションに興味がわいてきた。

「ところで、ラビリンスワールドとはどんなアトラクションですか?」

「それではラビリンスワールドの詳細な説明を行っていきたいと思います」

案内係の話をまとめると次のようなことだった。

・ラビリンスワールドは様々なイベントが行われているアトラクションでどのアトラクションに参加するかは個人の自由であり、気のすむまで自由に滞在することができる。

・お世話をする案内係などのスタッフ以外は皆ラビリンスワールドのアトラクションを体験しに来たプレーヤーである。

・出口は複数あるが、自分で探さなくてはいけない。

・ラビリンスワールドの入口を通った瞬間に過去の記憶がなくなる。

・出口を出れば、なくなった記憶は戻る。

ラビリンスワールドの屋敷内にはいくつもの部屋があり、部屋の奥にイベントをクリアーして扉の鍵をゲットしなければいけない部屋があるところもある。

・プレーヤーにはレベルがあり、レベル18以上にならないと入れないエリアがある。

・イベントに参加すれば勝っても、負けても、成功しても、失敗しても成果に応じた通貨(ゴールド)や経験値がもらえる(負けや失敗は勝ちや成功の1/10)。

・ゴールドを使って、いろいろな物が買える。

・ダメージを受けるとライフが減る。ライフがゼロになっても死ぬことはないが、動けなくなるので休息が必要となる(ゼロになる前に休息しても回復する)。

・ダメージを受けなくても行動することによりライフが少しずつ減っていく。

・休息する場所は案内所の奥にあるカプセルホテルのようにベッドが上下左右に配置された場所(蜂の巣のような配置)が使えるし、ラビリンスワールドのいたるところにベンチや椅子があるので、自由に休息に使うことができる。

・基本的に何もしなくても生きていける(死ぬことはない)。

聞いた話から、ロールプレイングゲーム(RPG)のダンジョン見たいだなと思った。

【ラビリンスワールド 第1章 (その3)  L103】

「次に名前を決めなければなりません」と案内係は言った。

「名前か。名前は必要だな。そういえば俺の名前は何だっけ?思い出せないな」特にこれといった名前がなかったので特に希望はないと伝えると、案内係は男子のリストを見せてくれた。その中から「ショウ」を選んだ。

一通りの話が終わると最後に四次元ポケットのように何でも入るウエストポーチ、スマートフォンと木の棒をもらった。スマートフォンには自分のゴールドの所有量、ライフの残量、格闘技などのレベル、SNSを通じてフレンドとのコミュニケーションなどの必要な情報の確認やメールや電話の通信機能、格闘技場での試合状況やライブ中継などの通信機能が備わっていた。木の棒は好きなように使ったらよいとのことだった。ごみ同然でほとんど使い道がないように思えた。ライフがなくなっても死ぬことがなく休息をとれば回復するので、命の心配をする必要がないということは分かった。また、おなかがすくということもないようだ。

ここのルールも分かったのでこのラビリンスワールドがどんなところか見てまわることにした。まずは案内所の東の出入り口から出発することにした。東の出入り口を出てすぐに格闘技場があった。この格闘技場はかなり広く多くの人が集まっていてあちこちで戦いが行われていた。格闘技場の隅にはベンチや椅子がたくさん設置しており、多くの人が休息をとっていた。

カプセルホテルまで戻らないでここで休息をとっている人が多くいるなと思った。格闘技場を過ぎると通路は左に曲がっており、曲がったところに武器屋と防具屋が並んでいた。ショーウインドウには安いものから高額なものまでかなりのラインアップであり、かなり充実している印象をうけた。しかし、一番安い武器や防具でも100ゴールドからであった。ショウはゴールドを全く持っていなかったので買うことはできなかった。

【ラビリンスワールド 第1章 (その4)  L104】

武器屋の向いには武器防具の工房があり、自分で材料を持ち込んで、武器や防具が作ることができるようだ。武器防具工房の横には取引所があり、ラビリンスワールドで使うことができるあらゆる品物が取引されていた。また、この取引所内にはプレーヤーが作ったものを売りたい価格で出品でき、気に入ったものがあればだれでも購入できるバザーもあった。武器防具工房も取引所もゴールドか物品が取引に必要で、今のショウには関係がなかった。さらに奥に進む通路があるようだったが、扉には「レベル18以下は入場禁止(L18禁)」と書かれていた。これ以上奥へは進めなかったので、いったん案内所まで引き返すこととした。案内所まで帰っている途中、格闘技場の前を通りかかった際にフラフラになりながらベンチに向かっている人がいたので、

「大丈夫ですか」と声をかけた。

「大丈夫?」とその人は聞き返してきた。さらに

「ここではこんなことは当たり前だから、気にするな。ところでお前、名前は」

「ショウです」

「ふーん。俺はダイキ。よろしくな」

「武器は何を持っているんだ」

「武器なんて持っていません」と俺は答えた。

「持ってないはずないだろう、最低でも木の棒は持っているはずだけどな」

「木の棒って武器なんですか」

「木の棒は武器にもなるんだ」

「今度、この格闘技場で勝負しようぜ」

「勝負ってどうやるんですか」と俺はたずねた。

「受付に行ってエントリーすればすぐにできるよ。簡単だ。約束だぞ。明日の朝9時にここで待ち合わせな」

「わかりました。明日の9時ですね」

俺たちはスマホで連絡先を交換した。

「それまで、誰かに勝負を頼まれても断るんだぞ」

「わかりました」

「それじゃあ、また明日。おれはそこのベンチで休息をとるから」

そう言ってダイキはフラフラしながらベンチまで行って、ベンチに倒れこんだ。

どうやら、ダイキは格闘技場での戦いに負けてライフがなくなったようだ。負けたらあんなふうになるのかとショウは思った。

ショウは案内所に戻ってきたが、その帰り道でまた別の人に勝負を申し込まれたが、ダイキとの約束があったので断った。

夜まではだいぶ時間があったので今度は案内所の北の出入り口から出てみることにした。北の出入り口からすぐのところに小さな花屋があった。数種類の花と植物の種を売っていた。屋内なのに種なんかどうするのだろうと疑問が沸いた。その隣にはとても高級そうな外見だが看板が無く、なんの店だか分らなかったが、着飾った人や高そうな武器や防具をつけている人が出入りしていた。高級そうな外見の部屋の隣には雑貨屋と服屋が並んでいた。雑貨屋にはアクセサリーや生活雑貨などの小物が、服屋には男女問わず多くの種の服や帽子が置いてあるようだった。価格的には武器や防具と違い価格は低く設定されており、100ゴールド以下で買えるものもたくさんあった。服屋の角を右に進むと家具屋があり、多くの家具がそろっていた。家具屋の商品はかなり高額で1万ゴールド以下のものは置いていなかった。休息するときにはそこら辺のベンチやカプセルホテルを使うのに家具はどこで使うのだろうと不思議に思った。家具屋の向いには服雑貨の工房があり、その横にはカジノがあった。雑貨屋の裏にはカフェがあり、人々のくつろぎの場となっていた。ラビリンスワールドの出口らしきものは見つからず、疲れてきたので案内所に戻ることにした。やはり、簡単にラビリンスワールドの出口は見つからないなと思った。

【ラビリンスワールド 第1章 (その5)  L105】

案内所に戻って案内係に

「建物内を見学していたら家具屋があったのですが、家具はどのように使うのですが」

と質問した。

「ここでの生活に家具は必要ありませんが、案内所の西の出入り口から通路をまっすぐ行ったところに庭につづく建物の出入り口があり、そこから庭に出られます」

と案内係は言った。

「庭なんてあるんですか」

「はい。かなり広い庭があります。平地だけでなく広大な裏山も庭の一部です」

「裏山まで。それじゃあ庭から敷地外に出られるじゃないですか」

「それは不可能です。敷地の境界には白い壁が張り巡らされていますので敷地外にでることはできません」

外に出られないというのだからそれくらいは予想できた。

「そうなんですね」

「その庭の土地は借りることもできます」と案内係はつづけた。

「土地を借りることができるのですか」

「はいそうです。しかし、土地を借りるには最低でも10万ゴールドからです。10万ゴールドで一番小さなガーデニングの区画が借ることができます。家となりますと最低でも100万ゴールドになります。ですからショウ様には現時点では関係ないと思われます」

確かに、一文無しなので、関係ないといえば関係ない。

「その借りた土地に家を建てたときに家具が必要となります」

「そこで、家具が必要となるのか。ところで、土地を借りるにはどうすればいいんですか」とショウはたずねた。

「そうですね。将来ゴールドをたくさん貯めたときのために説明しておきますと、案内所の北の出入り口から出てすぐの花屋の隣に不動産屋がありますので、そこで土地を借りることができ、家を建てることもできます。休息はベンチやカプセルホテルで休息できますので、家が必要というわけではありません。土地がなくても不自由なく生活ができます。土地を借りる方は家を建てるのが目的の方だけではなく、花や植物を栽培する為にガーデニング区画を借りる方も多くおられます」

「ラビリンスワールドを出られる際には自動的に返却されます」と案内係は続けた。

なかなかここの生活も充実してそうだなとショウは思った。

「まだ、説明していない情報として、格闘技場、各種工房、カジノは課題をクリアーすれば入れる部屋がありますので、お時間のある時にでも試されてはいかがでしょう」と案内係は言った。

「そんなところもあるのか」とショウは驚いた。

案内係は丁寧にラビリンスワールドの説明をしてくれた。わからないことがあったらここにきて、案内係に話を聞けば教えてくれると思った。ラビリンスワールドに来ていろいろ回って疲れたので、カプセルホテルで休息をとることにした。